クライアントの期待値調整の難しさ

仕事で起こる悲劇の多くはクライアントの期待値調整を誤った結果起こります。「この人はこれくらいのことをやってくれるだろう」という期待をもってクライアントはデザイナーのような専門家に依頼をするわけですが、その期待にすべて応えようという気持ちでコミュニケーションしてしまうと、お客さんの期待値がインフレを起こしてしまう場合があります。

期待されるのは嬉しいことです。私ももちろん「あなただからお願いしたい、とても期待しています」と言われたらもちろんやる気が湧いてきますし、とても嬉しい気持ちになります。ましてやクライアントのお商売に自分も興味があるならばなおさらです。少々の困難は乗り越えてでもこの仕事は成功させよう、という気持ちになるでしょう。

しかしその高揚感が落とし穴になることがあります。なんとしてもその仕事を取りたいがために不注意な値下げをしてしまったり、相手の期待をしぼませないように不確実性の高い部分に対して「まあなんとかやりますよ」といったような曖昧な空手形を切ってしまったり…。眼の前のテンションの高い相手をがっかりさせたくないという気持ちでついやってしまいがちなミスリードです。

そういった形でスタートしたプロジェクトは運がよければスムーズに終わることもありますが、多くの場合は途中で苦しくなります。予算や時間といった基本的なリソースの不足に苦しんでいるうちに相手の期待ほどのパフォーマンスが出せなくなったり、あるいはクライアントの要求するクオリティが自分の想定しているものよりもはるかに高いものに途中で化けたり、理由はいろいろですが、結局反省してみると元々は期待値調整のミスであることがほとんどだなと思っています。

私もご多分に漏れず失敗も経験し、特にこの数年は「先方の期待値を上げすぎない」ことをいつも意識しています。できること、できないことをできるだけその場で見極めて提示し、その場で分からないことは一度調べさせてください、と間を置きます。時間や予算といった有限のリソースを意識し、これらを無視した口約束をうっかりしないように気をつけます。

しかしながらです。あまりにそれを意識しながら話していると「できる・できない」の話に終止しがちになるという弊害も感じています。私はデザイナーという仕事の醍醐味はクライアントと同じ視座に立って一緒に問題に立ち向かうことだと思っています。とにかく期待値を上げないようにしようとすると、そうしたロマンティックな部分と言いますか、ワクワク感といいますか、そういうものがどんどんなくなっていく。

クライアントのテンションや情熱にうまく寄り添えなくなる、というのもまた考えものでして、ただ単にできることとできないことを整理して期待値を適正に調整するだけでは結局クライアントにとってもその仕事がよい体験にならなかったりするわけです。クライアントにとってよい体験になっていなければ、まず仕事は再びやってはきません。ええ、困ります。

知識を広げスキルを上げ自分が得意だと思える事例を積み上げていければ、より相手のテンションに変に飲み込まれることなく、より冷静に相手の期待に応える支援内容を提案できる、というのは面白くともなんともないけれど事実でしょう。しかし、やはりどこまでいっても期待値の調整は難しいなと感じる局面は減りません。人間同士のことですから、そういうものなのかもしれません。

とりとめのない話ですが、今日は以上です。

(所要時間:1時間)

Photo credit: Milosz1 on VisualHunt / CC BY

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