ウェブデザイナー・ディレクター・制作者がオリエンで確認したい5W1H

わたしはウェブデザイナーを名乗っていますが、直接のクライアントももつフリーランスですので「ディレクター兼作業者」的な役回りになることもよくあります。今回はちょっとディレクターよりのお話になりますが、オリエンテーション(案件の説明を受ける機会・場。オリエンと略されます)を有意義なものにするために心がけていることをまとめたいと思います。

もちろん、オリエンはクライアントが提示する依頼内容をしっかりと聞き理解することが大前提です。しかしただ説明してもらったことを持って帰るだけではとてももったいない。まずオリエン後、具体的な企画や制作プランを考えるときに必要な情報を聞き取れていないのではすぐに困りますし、確認にも時間がかかります。なによりも実際に制作に入ってしまってから案件そのものの意義を考える必要が出たとしたら、これは相当に骨の折れることになります。

案件についての説明をいただいたあと「なにを質問したらいいのか分からなくなってしまう」という方もいると思いますが、聞くべきことをある程度フレームワーク化しておいて、それを埋めるために質問・会話する、と考えればずいぶんと方針が立てやすいのではないでしょうか。最近私がオリエンのときに意識しているのが「案件の5W1Hをできるだけハッキリさせる」ということです。

Where――現在地と目的地

クライアントの現在地と目的地の確認です。

まず現在地。

  • 誰といっしょに
  • どんな経路(チャネル)を通じて
  • どのような人に対して
  • どのような収益モデルをもって
  • どのようなコストを払って
  • どのような価値を提供しているのか
  • 競合はどこか / それぞれの得意・不得意はあるか
  • その中でウェブサイト・アプリ(以後合わせてプロダクトと呼びます)はどのような位置にいて、どのような役割をはたしているのか

といったクライアントの現状と事業仮説・プロダクトの役割を確認します。これらを聞かれなくてもクライアントから説明していただける例は大変まれですし、聞かれてスラスラ答えてくれる方もなかなかいません(特にクライアントが提供する価値というのはなかなか掘り下げが難しいものです)。最初から完璧に埋めようとしないで、話の流れの中で徐々に輪郭を掘り出していく、というくらいの認識がいいでしょう。

ある程度、現在地が見えてきたら次に目的地の確認です。

  • このプロジェクトを通じて特に到達・解決したい点はどこか
  • 達成したい数字はあるか、それはどのようなものか
  • 利害関係者にどのような影響を及ぼしたいか

以上のような、「プロジェクトが目指すべき目標」をできるだけハッキリさせるといいでしょう。

Why――なぜこのプロジェクトが必要なのか

実際のオリエンでは「Why」の確認は目的地の確認と同時におこなうことになるでしょう。

「目的地にたどり着くために、なにがボトルネックになっているのか」そして「そのボトルネックに対する施策としてどのようにプロダクトを改善したいのか」を伺います。ここでは具体的なプロダクト上の施策、というよりも、先の「Where」――事業の輪郭と目標を念頭に話を進めます。どうしても具体的なプロダクトの改善策がトピックの中心になるとなかなか「鳥の目」のような広い視点で話をすることが難しくなるからです。

  • 新たに浮かび上がった事業の問題点・ボトルネックに対してプロダクトが十分に効果を発揮できていない
  • そもそもプロダクトに貢献させるべき事業上のポイントを間違えていた
  • 見てほしい人・使ってほしい人に行きつく経路(チャネル)について考えが足りず具体的な施策が打てていない

などなど、目的地にたどり着くために邪魔になっていることを「鳥の目」でまとめてみましょう。

 

What――で、なにをするのか

ここでこれまで言っていた「鳥の目」から切り替えて「虫の目」でプロジェクトを見てみます。

通常、オリエン時にクライアントから説明されるのはこの「What」が中心になると思います。ある程度信頼されている関係性ができていれば、この「What」を考えてほしいというタイプの案件もあるかもしれません。いずれにせよ、先にまとめた「Where / Why」を頭に置きながら「なにをするか」を考えてみると思考や議論の無駄が少なくなります。

ここであなたはクライアントから受けた説明に矛盾や破綻を感じることがあるかもしれません。プロジェクトの目的に対して、この施策はズレているのではないか、もっと簡便な道があるのではないか、そもそもウェブサイトでない経路(チャネル)の改善が必要ではないか…そうした疑問はどんどん口に出していきましょう。さきほども言いましたが、プロジェクトが走りはじめるとなかなかこうしたことは聞きづらくなっていくからです(ただしプロジェクトが進行していても致命的な失敗につながるズレはちゃんと指摘しなくてはなりません。ただ修正できることに制限は出てくるでしょう)。

Who――誰がするのか

座組みの確認です。オリエンの場にいる人は確認しやすいですが、クライアントの上にいるクライアントなど、契約が多層化していると見通しはひどく悪くなります。またデザイナーとエンジニアが同時にオリエンを受けられるとは限りません。あるいはあなたが人選して他の専門家に声をかける必要があるかもしれません。

プロジェクトチームの誰がなにを担当するのかは進行上極めて重要なことです。特に「クライアントサイドの人たちがなにをするのか」はよく確認しないとトラブルの元になりやすい要素ですので、よく注意して確認しましょう。

オリエン時は粒度はそれほど細かくなくてもよいと思います。のちほどディレクションを担当する人がタスクを分解し、期限を定め、各メンバーに認識できる形で通知するのが理想的でしょう。

When――いつにするのか

納期とマイルストーン(中間作成物 / 中間納品物の期限)の確認です。提示される納期がマストの条件である場合、諸条件と照らし合わせて実現可能なものかをよく考える必要があります。実現が難しければ「What / Who / (後述する)How」の内容を「Where / Why」を念頭に置きながら調整することも必要になるでしょう。オリエン時には納期の希望だけ伺い、その場で即答はせず精査して回答するケースも多いです。

How――いくらで、どのようにプロジェクトを進めるのか

予算

予算はオリエン時に聞けるのが理想です。「What / When / Who / How」はそれぞれ密接に関わりあっていて、限りある資源(予算・時間・人的能力)の中でどれを優先するか、という取捨選択がどこかで必要になるからです。その調整は早いタイミングでおこなえるに越したことはありませんし、オリエンの場で調整できるならかなりのリソース節約になります。

とはいえ「まずそちらの見積から…」というリクエストも多いものです。こちらから出したところで、あとでなんらかの調整が必要になる場合は多いので「進行・条件によっては変動しうる」旨よく確認してから見積を出すようにしています。

その場で「ザックリいくらくらいかかりますかねー」と聞かれることもありますが、その場ではっきりした数字を明言はしないほうがいいでしょう。ただし特にウェブデザイナーへの発注に不慣れなクライアントの場合「桁がひとつ違ったらどうしよう…」という不安は当たり前に持っているものだと思います。これまでに経験があるタイプの案件である場合は「これまでの経験では50万円〜100万円の間におさまることが多かったです」というように口頭で幅を持たせて回答するだけでも安心してくれるケースは多いと思います。

コミュニケーションルール

どういったルールでコミュニケーションを進めるのかを確認します。チームやクライアントの性質によって様々な形態があります。

定例ミーティング・期間を定めての報告義務・Gitでのコミット・タスク(チケット)管理ツールによる報告・ルールを特に定めずチャットやメールで随時連絡…などなど、これらについては一長一短ですので、こうしたほうがいいというものはありません。こちらから提案できる場合も多いと思いますが、様々なコミュニケーションルール(またはツール)に慣れておくと提案の引き出しが増えるので、好き嫌いせず飛び込んでみるのがいいと思います。

ゆたかなオリエンのために

と、ここまで書き出してみましたが、現実のオリエンでここまでの情報をガッチリ決めるというのはとても難しいものです。時間に限りはありますし、クライアントがすべての質問に明確に答えてくれるということはなかなかありません。

しかしこの5W1Hを念頭においてオリエンに臨むだけでも、かなりコミュニケーションが豊かになることと思います。「ただ話を聞いただけで終わってしまった…」「それはできる / できないというネガティブな話に終始してしまった…」という状況にはなりにくいのではないでしょうか。特に初対面だとお互いに緊張してしまうのがオリエンというもの。こちらからリードして話を掘り下げるだけでもずいぶん空気はよくなるものだと思います。

とくにオリエンで他と差がつけられるのは「Where」と「Why」――「鳥の目」視点での情報を積極的に聞き出すことです。他の「虫の目」視点での確認項目の前提にあるのは「鳥の目」視点での絵地図なのですから。「ちゃんと僕らの商売に興味をもってくれる人でよかった」とオリエン後に言ってもらえたことは私の仕事でのよい経験のひとつです。

あ、プロジェクトに入ってから「オリエンの内容を忘れず、しつこく思われてもなんどでも口にする」こともまた重要(というか私の課題)ですが、それはまた別の話…。

おまけ:リーンキャンバス

「Where / Why」を確認するのに便利なのはスタートアップの事業計画などに広く用いられているリーン・キャンバスというテンプレートです。あまりすべての項目を埋めるのにこだわる必要はありませんので、気軽にこのテンプレートに書き込みをしながら事業の輪郭を伺ってみるとはかどります。こちらの記事に紹介されていますので、併せてお読みください。

成功したスタートアップから学ぶビジネスモデルの設計方法「リーン・キャンバス」とは|ferret 

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