素朴だけど凛とした美しさが光る和文書体「こぶりなゴシック」について #LOVEFONT

このエントリは「#LOVEFONT Advent Calendar 2013」への参加エントリです。
デザイナーのくせにあんまりフォントについては語るということをしたことがなかったのです。かなりの挑戦ではあるのですが、好きなフォントについてしゃべってみる、ということを初めてやってみようと思います。

私からご紹介するのは「こぶりなゴシック」というフォントです。凸版印刷株式会社有限会社字游工房大日本スクリーン製造株式会社による共同開発フォントであり、その昔は凸版印刷株式会社のプライベートフォントでもありました。
現在ではパッケージ版として一般に発売されている他、MORISAWA PASSPORTにも収録されているため、馴染みのある方も多いのではないでしょうか。

まずは比べて見てみよう

皆さんが見慣れているフォントであろうというところで「ヒラギノ角ゴ」「新ゴ」と比べてみました。

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ベタ組み、同じ級数、同じ行間指定ですが、なるほど、名前のとおり「小ぶりな」印象です。同じ級数で組んでも「こぶりなゴシック」は字面率(文字の仮想枠に対する字面の割合)が抑えられているので字間・行間とも余裕のある雰囲気に仕上がります。本文用に作られた書体ということもあり、読んでいて疲れないゆったりした雰囲気が魅力です。

また、「と」や「も」などを見比べていただくと、運筆が他の書体と比べてナチュラルで、書き文字に近い表情を持っていることが確認できると思います。見出し用に詰めて使ってもエレガントなのはそのためかと思います。

個人的には

  • 現代的で快活、明るくカジュアルな新ゴさん
  • 頭脳明晰でキリッと決まるスーツ姿のヒラギノ角ゴさん
  • 控えめで素朴だけど凛とした美しさが光るこぶりなさん

という、そういうキャラ付けであります。

どんなときに使うか

一般的にデバイスフォントというのは字面率が高く、特にメイリオなどのフォントはいささか饒舌になってしまう嫌いがあります。ウェブの文字はデバイスフォントで、という傾向が強くなってきた昨今ではありますが、サイトのデザイントーンを決定するような「ここぞ」という箇所では画像による表現、という選択肢もまだまだ捨てられるものではありません。

一般的なデバイスフォントの字面率に慣れたユーザーにとって、こぶりなゴシックの持つ自然で控えめな佇まいはミニマルなサイト、ナチュラルな雰囲気を出したいサイトに、確かな存在感をもって寄り添ってくれることでしょう。最近多い大きめの写真を主役にした表現にもぴったりです。

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Photo by Aimee Lindell

こぶりな派に朗報。「游ゴシック体」がMacOS X MavericksとWindows8.1に付属されている

でもせっかく本文で組んで美しい「こぶりなゴシック」どうせならデバイスフォントとして、あるいはウェブフォントとして本文でも使いたい! と思うのですよ。しかしウェブフォントはまだまだ高いし、一部環境での再現性の悪さを考えると、なかなか踏み出しにくいものです。

しかし、ここで朗報が!

この秋に登場したMacOS X MarvericksとWindows 8.1には「こぶりなゴシック」のデザイン元である字游工房さんによる「游ゴシック体」が新たに収録されているというではありませんか。このことに関して大きな反響がなかったため、それを知り合いに聞くまで知らなかったのですが、このふたつのフォント、共通点が多いです。「こぶりなゴシック」そのままではないにせよ、これからのMac / Win環境での表示において、あの雰囲気にかなり近いものがデバイスフォントとして実現できてしまうことになります。

「こぶりなゴシック」と「游ゴシック体」を比べてみると…

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ぱっと見にはほとんど違いがわからない、という方も多いのではないでしょうか。「お」など仮名では大きく骨格が異なっている字がありますね。全体的に「こぶりなゴシック」の方がフトコロ(画と画が構成している内側の空間)が大きく、おおらかな印象があります。また漢字にも違いがあります。「こぶりなゴシック」は角のニュアンスが固いのに対して「游ゴシック体」は角を仮名文字の雰囲気に合わせて丸めに処理していることが分かります(このサイズでは分かっていただきにくいと思いますが…)。

なお、この「游ゴシック体」については、このアドベントカレンダーの昨日のご担当、@tnkyyさんが詳しく書いてくれてますよ!
小さいということ、それ即ち正義。游ゴシック #LOVEFONT – eupho

両者の違いはあるにはあるのですが、こぶりな派の好みに近いフォントとして重宝されるのでは、と思います。このブログもfont-familyに「游ゴシック体」の指定を加えました。MacOS X Mavericks / Windows8.1環境ではその美しさを味わっていただけることと思います(ただしこのまま使うと字が小さく、かつ文字間が開いて見えるので、級数を少し上げ、行間も2.0とかなり大きめに設定しています)。

ちなみにCSSでの指定はこんな感じに。

font-family: YuGothic, '游ゴシック','ヒラギノ角ゴ Pro W3','Hiragino Kaku Gothic Pro','メイリオ',Meiryo,sans-serif;

ウェブフォントでも使えるようになる…かも…?

11月29日、株式会社モリサワはMORISAWA PASSPORTに同社のウェブフォントサービス「TypeSquare」の利用機能を追加することを決定しました。年間計1,000万PVを超えない範囲でクラウドサービス・セルフホスティング両方の形式でモリサワと提携メーカーのフォントが利用できるようになります(とはいえ、デザイナーのライセンスでクライアントワークにウェブフォントを用いるのは、ちょっと考えにくいですがね…)。

ただし、残念ながら「こぶりなゴシック」を含むヒラギノファミリーのフォントは現在このサービスには含まれていない模様です。待てば海路の日和あり、かもしれませんが。

フォントの「人となり」を知る楽しさ

これは余談なのですが、私たち夫婦が運営しているコワーキングスペース「JUSO Coworking」のシリーズイベントして、メンバーさんである上田寛人さんが主催されている「和文と欧文」というイベントがあります。こちらのゲストが毎回豪華でしてね。
この「こぶりなゴシック」「游ゴシック体」のデザイン・開発を担った有限会社字游工房の鳥海修さんがいらっしゃったことが何度かあります。ワークショップに参加した後、懇親会でお酒を何度かご一緒させていただいたこともありました。とても気さくな方で私はご本人の佇まいや仕事に対する想いにとても感銘を受けたものですが、そういう体験もあって私はますますこのフォントのファンになったのだろうと思います。

便利に使う道具であるフォントも開発の過程や背景を知ると愛着もひとしお。好きなフォントについてこうして考えたり、調べたりする機会もデザイナーにとっては大事なことだと思いました。

言い出しっぺのWEBCRE8優さん、いい機会を与えていただいて、ありがとうございました。
そしてこのフォントを開発してくださった凸版印刷さん、字游工房さん、大日本スクリーン製造さんに感謝と敬意を表しつつ、このエントリを締めたいと思います。

さあーて、明日の#LOVEFONTは?

ウェブデザイナーを中心として様々な皆さんが好きなフォントについて語る「#LOVEFONT Advent Calendar 2013」。こちらで他の執筆陣とエントリへのリンクが確認できますので、ぜひいろいろ読んでみてください。

次回(明日)はWordBench Osakaでお世話になっているデザイナー・角田綾佳さんのエントリです。女子力高めなスクリプト書体「Lino Script」についてだそうで。楽しみですね!

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