去る2018年6月2日に行われたWordCamp Osaka 2018のセッション・デイにスピーカーとして参加してきました。WordCampへの登壇は2回目、2014年のWordCamp Kansai 2014から4年ぶりとなります。
今回は私がお話させてもらった演題は『どれだけかかるの? WordPressでウェブサイト制作、お見積の実際』というものでした。発表スライドはSpeaker Deckに公開しております。
この記事ではこのセッションについて、スライドだけでは分かりにくいこと・語れなかったことなどを書いていきます。
この発表のねらい
かなーり細かく見積項目を立てています。スライド中には表現されておらず口頭でお話したのみですが、これはあくまで私の見積もり時の思考分解の実験であり、実際にクライアントにこれだけ細かい見積書を渡しているわけではありません。とはいえ、項目にざっくり「CMS設計費」だとか「CMS導入設定費」とだけ書いてあったとして「この項目なんですか?」と聞かれた場合に頭の中にこれだけ細分化された項目があるとずいぶん答えやすくなるんじゃないかな、ということです。また、これだけの見積を立ててみれば、進行管理のかなり有用な資料にもなることが分かるのではないかと思います。
10年ほどフリーランスをやってきて見積のやり方も徐々に変わっていきました。実際かけだしの頃に比べれば、ずいぶんと高い見積を出せるようになった実感はあります。単に作業単価を見直したこともありますが、それは実は1回だけのことで、なにが大きく変わっているかというと「見積項目」が増えたことが大きい。つまり
- 細かすぎて計上する必要もないと思っていたこと
- 中間成果物にもしていなかった細々としたブレインワーク
- 公開間際〜後の終わることなき修正ラッシュを避けるために事前に必要なフロー
そうした物事を可視化し、しっかり値付けをしていったことが要因として大きかったと思うわけです。クライアントも私も意識しないけれど、実は大きな力を使っている事柄や、専門知識や経験をもっているゆえに徹底的に省力化できている事柄…そういったものに価値をつけていくことは実は大事なことなのではないかと思うのです。
このセッションの目的はまず「自分の見積思考の棚卸し」であります。もう少し言えば、それを広く発表することでいろんな方にご自身の見積もり時の思考を棚卸しするきっかけにしていただければ…そしてもしよければ、それを同じく発表していただいて知見を広げていただければ…ということになります。
見積の理想と現実
これは私の現時点での「理想の見積」であり、現実にこれで話がスッスと通る、というようなお話ではありません。実際の案件では当然クライアントの予算の限界があります。多くの場合はこうした見積を立ててから「どう削るか」を検討することが多いですし、むしろその削り方に悩むことのほうが多いです。単にセーブできそうな項目を削っていく、というだけだと結局プロジェクト進行やクライアントの期待に応えるために必須の過程まで削っていてあとで困る…というようなこともあります。どのように単価を下げずに見積を予算におさめるか、そのためにクライアントが負うマイナスの条件をプロジェクトを通じてきちんと明示・共有していられるか…これはとても大事なところだと思います。
また、少しスライドでも触れていますが、最初のヒアリングからあのような細かい見積もりを立てることはほとんど不可能であり、少なくともの設計の段階を経なければああいった詳細な見積を立てることはできません。そこでスライドにあるように、プロジェクトを設計フェーズと開発フェーズに分けるという対策をしたり、概算見積を立ててある程度余裕を持った予算を確保したり…といったことが必要になってきます。
これらの「理想と現実」についてはセッションの中で少し触れただけですが、このへんが一般的なお話にするのがもっとも難しいところであり、語りきれなかった…というより、語れなかった部分でもあります。
反響と見積額の評価について
さすがはWordCamp、2.5kもの閲覧数を1週間でいただきました。SNSやブックマークを見てるに、さすがに「安い!」という声はほとんどなく「こんな価格で受注できない(高すぎる)」という人と「こんなもんだろう」という人とに分かれている印象です。おひとりだけ「単価はもっと上げられんじゃない?」とおっしゃってくれた方はいました。
このセッションで例示した事例はWordPressの設計・構築のみでなくディレクションとデザインを含むため、それぞれの分野にどれだけ力点をおいて営業をしているかによっても、大きく捉え方が変わってくるのかなと思います。私の場合、デザインプロセスとWordPressに関する知識、どちらも自分の長所として営業してますので、どちらかだけ単体で受けても十分成り立つ価格をつけさせてもらっています。ディレクションに強みをもっている方なら、おそらくディレクション費にもより多くの仕事と価値をつけることができるでしょう。
つまりどの分野のどのようなサービスでクライアントのビジネスに貢献するのか、その自負を表すのが見積であり、自らのビジネスの価格付け、ということになるのかと思います。
なお、私も10万〜20万円くらいのお仕事をいただくことはよくあります。最近ではこうした事案に関しては、CMSはJimdoを選択することが多いですが、WordPressでもSnow MonkeyやLightningなどの日本語に対応した優良テーマを用いて同様のことができないかな、と考えているところです。そういった意味でもサイト管理者にさらなる自由をもたらすことが予想される新エディタGutenbergには期待しています。
配布資料
当日には教室からあふれ出すほど多くの方がセッションに詰めかけてくださいまして、環境が悪いにもかかわらず熱心に聴いていただけました。資料として紙にプリントした見積書をお配りしましたが、席数分しかプリントしておらず、まったく足りませんでした。準備不足で申し訳ありませんでした。こちらでPDFをダウンロードしていただけますので、ご興味のある方はどうぞ。
このブログ主の夫のほう。大阪を中心に活動するウェブデザイナー。水交デザインオフィス代表。JUSO Coworking運営。趣味でハウス・ディスコDJ / デレマスP。共著書『世界一わかりやすいWordPress 導入とサイト制作の教科書』発売中です。