制作実績の公開と著作者人格権の放棄について考えていること

記事をお読みになる前に——2011年10月25日追記

この記事について、Twitterより@yamato様からご意見を賜りました。
少なくとも日本での法解釈においては、著作者人格権と制作実績の公開は直接の関係はないのではないか、とのご指摘でした。勝手な要約を施してしまうとますますややこしい情報を広げてしまうことになりかねないので、少し長くなりますが、以下ご本人に許可をいただいた上で引用させていただきます。

なお、@yamato様も法律の専門家ではなく、ご本人が一制作者としてお調べになり、お持ちになっている解釈であることを付け加えておきます。「この追記も含め、お読みになったお一人おひとりが制作者の権利について調べ判断していく、そのきっかけになれば」ということで合意し、引用させていただくものです。

以下、@yamato様のツイート引用です

  • 製作実績の公開は著作人格権関係ないです。たぶん。あとでブログにでも書くかな。
  • 詳しい人に本当は聞きたいところだけど。基本的に仕事をしたよ。って言うのは「仕事をしたという個人の実績」なので、基本的な人権です。で、秘密保持とかの為に公表されてはまずいケースを扱う為に守秘義務とかがあるんじゃないかと。
  • (中略)著作人格権での非行使が、仕事の実績の公開を妨げるものになると「実績をもって営業活動できなくなる」風潮になるから本当嫌だなぁ。
  • もともと著作者人格権の非行使は「同一性保護権」の非行使の為に結ばれてるものが出自らしく、それはつまり「あとから製作者以外がメンテナンスできるようにする」という真っ当なもので、製作者の実績を依頼者が総取り=製作者の営業活動を阻害するものではなかったはず。
  • で、繰り返しになるけど守秘義務とかはそういう意味で、実績など各種情報を含め扱いかたを決めるためで、基本「秘密情報をどうあつかうか?」ということを決めるもので、そこには「事実であろうと存在をしられては問題だ」というケースを含まれるわけですね。
  • 公表権は、作った人が実績を公表するしないの話じゃなくて、「作られた物」を「公にするしない」の話を権利者が決められる、という話ですよね。で、公にされた時点で「非公開にしろ」っていう権利は消滅します。
  • あ。JAGDAのには公表権については深追いされてなかった。良かった。とはいえ、公表権を実績の公開と紐付けて考えてる人多そうだなぁ。。。ううう、関係ないとおもうよぉそれ。それをミスリードするとほんと自分達の人権が守れなくなるぞぉ。って、実際どうなんだろう???
  • というか、実績公表できないでどうやって営業すんのよ。。。っていう観点で考えるとですね、場合によっては実績の公表を妨げるのは下請け法違反になります。営業活動の妨害だから。
  • 事実の公表っていうか、、、表現の自由ってやつね。表現してることが事実であるなら、それは止めようがないんだよね、人権だから。事実じゃなかったらものいいはつけられるわけで。
  • 著作権と著作者人格権ってのは中心に著作物があって、著作物に対してどうそれを取り扱うか? という話なので、それをつくった人を規制するものではないんだよなぁー。
  • ちなみに著作者人格権のどこにも実績の公表について触れている部分はないんじゃない?? 実績ってのはあくまでも「個人の仕事をしたという事実の公表」なので、基本的に事実を個人が公表する権利を妨げられるものではないはずです。
  • @witch_doktor あれについて僕が一番キケンなのは誰に都合がいいかというと、実績公開をさせたくない側に都合が良くなっちゃうんですよー。結構著作者人格権って限定的で、実は仕事すると下請け法や基本的人権などなどいろんな法律と絡んでたりします。

(引用ここまで)

問題提起のつもりで起こしたエントリが制作の現場の皆様にとって誤解をもたらす内容となってしまったこと、深くお詫び申し上げます。
エントリ本文について、過ちであると思われる箇所はあえて打ち消し線をもって訂正させていただきます。論の前提がおかしかったわけですから打ち消し線だらけの骨抜き論になりますけれども…。
けれども、制作実績への不掲載という条件に対して対価を設定するというスタンスは変わらず続けていこうと思います。

参考にしていただければ幸いです。

最後に。ご指摘を賜りました@yamato様、深く御礼を申し上げます。このままではドヤ顔で恥をさらしつづけるところでした。これをきっかけに、議論が深まることを祈ります。


以下、元々書いたエントリ本文です

「クライアントさまとの守秘義務契約に基づき制作実績の公開は一部のものとさせていただいております」

制作会社などのポートフォリオサイトではよく見かける一文です。
私たちも実際の業務の中で「水交さんが作ったことは公表しないようにしてください」とお客様に求められることはよくあります。

参考:JAGDA – デザイン制作契約約款 第3条 著作者人格権(10/25追記:私の論述とJAGDAの解釈が異なる可能性が高いため、リンクは切っています)

このうちの公表権と氏名表示権に基づき、制作者は制作実績として自らの制作物を公表できる権利を有することになる、と私は解釈しています(ただし実体として判例などで裏付けられているものではありません)。

ただしこの権利は、お客様の利益とバッティングすることがあるのもしばしばです。
上に書いたように契約によって「制作者は一切の著作者人格権の行使を行わない」とする特約を付されることがあり、これは法的に有効です(10/25追記:「著作者人格権の不行使=制作事例等の掲載制限」ではない、とのご意見をいただいています)。そして守秘義務契約にこの一文を加えることはごくありふれたことになっています。

参考:人力検索はてな「デザイン会社に会社のパンフレットを発注するので、著作権問題について教えてください。」

お客様にも様々な事情があるわけで、こういった契約があること自体については当然だと思いますし、その事情をわたしたちは尊重します。ただしわたしたち制作者が無条件でこれを認めるという風潮にはずっと疑問をもっていました。

著作権はお客様に納品の際に譲渡しております。制作物の末尾にお客様の屋号・お名前をコピーライト表示するのはその明示のためです。「制作物の著作権譲渡」は私たちの制作料金の範囲内としています。
しかし著作者人格権放棄に関してはオプション扱いとなります。

水交デザインオフィスでは原則として、業務上の制作物に関して「著作者人格権を行使しない」旨の特約をかわす場合、著作者人格権放棄にかかる料金として、かかる制作物の制作料金の10%を別途いただいています。
そしてこれを見積などの中に明示的に記載しています。

これに関してはもうひとつ方法がありまして「暗示的に10%の料金を上乗せし、制作実績への掲載許可を条件にこの分をディスカウントする」という方法があります。おそらく商売人としてはこのやり方の方がスマートで、感じがいいんだと思います。
けれど、私は「制作物を売る」ということと「自分の名前(あるいは人格権・あるいは看板)を売る」ということは違うものだという立場を明確にしたいと思っています。

法律以前に、制作実績は私たち「ものを作る人」にとっては無形の財産です。著作者人格権の行使・不行使は目には見えにくいけれど金銭的対価をともなってしかるべき「利益のトレード」だといえないでしょうか。

「なんとなく」で渡してはいけないものを渡してしまっていませんか?

※ちなみに私は著作者人格権の中の「同一性保持権」については一定の条件(デザインを他の目的のために流用しないこと等)のもと放棄しています。ウェブデザインは更新されていくことを前提としたデザインですので、その度に僕に許可を要する、という取り決めはお互いの利益にならないからです。

Photo by Horia Varlan on flickr

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