「ナタリーってこうなってたのか」読了

音楽・コミック・お笑いと3つのジャンルにわたるポップカルチャーのニュースメディアとして不動の地位を築いた「ナタリー」。その創業者である大山卓也さんの著書。共同創業者である津田大介さんとコミックナタリー編集長である唐木元さんの特別対談も収録してます。

私は「海とダイビングの総合サイト オーシャナ」というウェブサイトを2012年の立ち上げから、技術担当としてお手伝いさせてもらってます。もっといえばその前身のひとつである「スキューバダイビング.jp」というサイトは2010年のこれまた立ち上げから関わっていますので、かれこれ4年の付き合いになります。

その「オーシャナ」のCEO(Chief Editorial Organizer、いろいろやってはります)であるいぬたくさんという人がいるのですが、彼がこの本を読んだというので、彼の興味を知りたい半分、ウェブメディアに関わる人間としてタメになりそうだという気持ち半分、その日のうちにAmazonから購入したのです。

実に2時間程度でスッと読めてしまうくらいの内容なんですが、ポイントは結構シンプル。

ぶれない、強い。たったふたつのコンセプトの話

ナタリーはそれほどSNSにおいて存在感のあるメディアでありません。だから実は僕はあまりこのメディアのことを知らなかったのです。

それは僕があまり国内の音楽やコミック、お笑いに興味を持っていなかったからであり、この本を読み終えた今、知らなくて当然だったと腑に落ちました。
そもそもこのメディアはクラスに1人は必ずいる「音楽が大好きなやつ・マンガが大好きなやつ・お笑いが大好きなやつ」に向けて、徹底したコンセプトのもとで積み上げられてきたメディアだったから。私はそれに該当しなかったんですね。

2001年、個人サイト「ミュージックマシーン」を立ち上げたときに著者が掲げたコンセプト

  • 批評をしない
  • 全部やる

この2つのコンセプトが180ページ、絶えずベースラインとして流れています。

それは「自己表現しない」「過剰である」とも言い換えられてます。
そのコンセプト自体は決して読んだ瞬間ハッとさせられる、というものではありませんが、すべてのエピソードがこのふたつのコンセプトにつながっている。そしてそれを守ることの凄さというか執念のようなものに圧倒された180ページだったとも言えます。

強いコンセプトは

  • ピンチの時の羅針盤であり
  • 有能な人を集める灯台であり
  • そのチームが掲げる美と恥を定義する

とても大切なものなのだと感じました。
自分がやっているサービスであるJUSO Coworkingに少し重ねあわせて考えたりもしていました(もちろんこれはウェブメディアではないですけれども)。

チームの話としてもおもしろい

著者である大山卓也氏とナタリー共同創業者である津田大介氏・コミックナタリー編集長の唐木元氏、そしてナタリーを形作るさまざまな個性たち。そのチーム感もとても面白く追っていました。このあたりの下りは巻末の津田氏・唐木氏の対談で補完されていて、チーム論としても面白く読めます。

個人的には大山氏はどんなに面白そうな飲み会があっても断ってやるべきことを継続して同じ熱でやれる人、でも僕は違うな、というような話があって、そのあたりの話がツボでした。「365日好きな曲を解説付きで紹介する」ということを雨の日も風の日も正月もフェスの日でもやってのけた前述のいぬたくさんとかぶって見えたのかもしれません。継続力がある人がリーダーにいる、というのはとても大切なことなのだと思います。

デザイナーや技術担当の話はとても少ないのですが、しかしやはり屋台骨を支えているのは彼らであり、著者も「たまたま」凄腕のデザイナー・エンジニアに巡り会えたことは幸運だったと振り返っています。

バイラルメディア全盛の今だからこそ読むべし

バイラルメディアが隆盛を誇るこの2014年に、強烈なアンチテーゼとしてこの本が出たことには大きな意味があると考えます。
効率が悪い、地道なやり方かもしれないけれど、取材対象への愛があり、ニュースサイトかくあるべし、という強い哲学がある。
愚直かもしれませんが、バイラルメディアの対極としてナタリーのようなサイトがあることは日本のインターネットメディアにとっては大きな財産なのだろうと思います。

インターネットメディアのあり方について考えるには最良の一冊かと思います。

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